シダックスの創業者にして最高顧問の志田勤さんが農業についてずいぶん元気が良い論説を書いておられます。
TPPを推進する立場として代表的な意見ですね、引用すると、
・TPPの実施を5~10年の猶予期間を置き、その間に日本の農業を進化させる。 ・補助金政策から世界に通用する農業に変革するのだ。 ・今をチャンスととらえよう。 ・一般企業はそうして世界と戦ってきて今日があります。
などなど。
なるほど、と思う部分があります。製造業にしても小売・サービス業にしても、一般企業は競争で淘汰されながら、世界と戦える体力をつけてきたわけです。
例えばコンビニを見ると良くわかります。あんな小さな店なのに、誰もが便利な品揃えを実現して、さらにはATMや郵便まで、とにかく便利になることに徹底的に努力しています。同じ店舗面積でも、昔ながらの田舎の商店に比べて明らかに優っているわけです。
もしも補助金行政で業界を守っていたら、現在のコンビニチェーンのような存在は生まれず、そのうち海外からやってくる黒船企業に一気に負けてまっているかもしれません。でも、現在のコンビニチェーンは、逆に海外でも勝てる可能性を持っています。
そんなこんなで、農業の場合にも、仮にTPPで自由化が進んでも競争で勝ち抜く農業企業が生まれるだろうし、農業が無くなることは無いだろうと私は楽観視しています。
でも私が心配しているのが、「農業」ではなくて「農地」です。
小売の場合も「商業」は無くなっていませんが、昔の「商業地」(つまり商店街ね)はボロボロじゃないですか。当初は「大規模小売店と商店街が連携してより発展する」なんて夢物語も語られましたが、実際はそんな甘くはなく、商店街はシャッター通りになっています。
それでは「農地」はどうでしょうか?
農業でも勝ち組みが登場し、条件が良い農地は活用されると思います。条件が良いってのは、たとえば広くまとまった農地で地権者も協力的だったり、消費者がいる都会に比較的近かったり、地域ブランド作りに成功するエリアです。こうして「農業」は生き残ります。
一方で、半分以上の「農地」は負け組になることでしょう。競争の中で耕作する余力も奪われ、耕作放棄地になると思われます。
今までの農業は補助金づけとか低生産性とか批判はあるものの、耕作放棄地を最小限にすることに成功してきたんです。それは田舎暮らしをすると良くわかります。高齢になった農家さんにとって、田畑を維持することは大きな負担です。それでも、たとえ収穫しても小遣い程度の収入だとしても、農家さんは皆さん「田畑を荒らしたら周りに迷惑がかかる」って意識が非常に高いのです。
このへんの感覚は都会の人には分からないかもしれません。使っていない田畑に雑草が生えると鳥獣や虫の拠点になって周りの田畑にも迷惑になるものですから、決して田畑を放置したらダメなんです。あぜ道や用水路もメンテナンスしないと他の人に迷惑がかかります。 こうした農家コミュニティーの中で農地は維持されています。
仮に農業の中で勝ち組が生まれても、その勝ち組がすべての農地をカバーしてくれるとは思えないのですよ。では、耕作放棄地のメンテナンスなんて現在の高齢者農家よりさらに生産性が低い仕事、誰がするんですか?
威勢の良い都会の人は「宅地や工業地にするとか、メガソーラーにするとか、付加価値のある活用すればいいじゃん!」と言いそうな気がしますが、そのためには電気・水道・ガスなどのインフラが必要だったりします。いちいちお金がかかるんですよ。活用できるエリアはどうしても限られてしまいます。
国交省の統計(統計局より)によりますと、日本の土地のうちで森林が66.3%、農地は12.4%、それに対して宅地は5.0%にすぎません。
田舎暮らしで目の前に広がる田畑を見ながら、「この農地が荒れ地になるとどうなっちゃうんだろう?」と不安を感じる今日この頃です。